引き寄せ的 ロレックスマラソン⑦

701 引き寄せ的 ロレックスマラソン

 その日は雨でした。

 客足も鈍るのでは、という安易な発想も手伝い、A店とB店をはしごしてみようと思い立ちました。午前の会議が長引き、遅めの昼休みを利用して出走です。

 A店前。入店待ちは2組。
 どうやら雨は無関係なようです。
 名刺をいただいた男性店員はご不在。B店に向かいます。

 B店は入店待ちゼロ。
 マラソン開始以来、初めてでした。

 すんなり店内に通され、名刺をいただいた女性店員さんをたずねると

 「あと15分ほどで戻ります。お待ちになりますか」

との返答。一瞬、午後の会議のことが頭をよぎったものの、なぜだか、留まるべきだ、との思いが湧きおこり、待たせていただくことにしました。

 店内に背を向けて座るカウンター席に腰かけていたため、背後の様子はよく分かりませんでしたが、私が入店した後、客足は戻ったようでした。
 やはり、天候は無関係のようです。

 賑わいの気配を感じつつ、壁面のデジタルサイネージを眺めて待つこと約10分。
 「お待たせして申し訳ありません」とお声がけいただきました。
 そして矢継ぎ早に、しかし、小声で「エクスプローラーをお探しでしたね。すぐ在庫を確認して参りますね」などと仰るや否や、踵を返し、足早にバックヤードに戻られます。
 「こんにちは」とご挨拶差し上げる間もないほどの早業でした。

 在庫確認は、前回同様、長めでした。
 バックヤードの方を眺めて待っていると、こちらに戻ってくる店員さんと目が合いました。
 瞬間、彼女が小さく頷いたように見えました。

 先ほどとは打って変わって、優雅な足取りで私の前に立つと、一呼吸おいて、

 「在庫、ございます。ご用意できます」

 マスク越しにも分かる笑顔で、しかし、やはり、小さな声で教えてくれました。
 マラソン開始から10日目、AB2店舗通算で訪店7回目のことでした。

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